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ビリー・アイリッシュの初日本単独公演をレポート!  パワーと刹那が共存する、一夜のメッセージ。  (Sakurako Suzuki)

8月26日、ビリー・アイリッシュが初の日本単独公演「Happier Than Ever The World Tour 2022」を有明アリーナで開催。約4年ぶりとなる日本公演で、ビリーは自身の圧倒的なアーティスト力を見せつけた。繊細かつパワフルな歌唱力や衣装へのこだわり、舞台演出に秘めたメッセージなど。今回のライブのハイライトをまとめた。

ビリー・アイリッシュが初の日本単独公演「Happier Than Ever The World Tour 2022」を8月26日、有明アリーナで開催した。彼女が日本でステージに立つのは2018年、16歳でサマーソニックに出演して以来、約4年ぶりだ。

ビリーのデビューは、衝撃的だった。2015年、当時14歳という若さで「Ocean Eyes」をサウンドクラウドで発表。儚い歌声とパンクなビジュアル、そして兄妹で音楽制作する独自のスタイルで業界の注目を集め、2019年に発表した「Bad Guy」で人気を不動のものに。日本でもビリー旋風が巻き起こり、同曲がクラブで流れると皆が“Duh?”を合唱し(コロナ前)、街中はビリーと村上隆がコラボした「UT」のTシャツで溢れた。

そんな彼女は、LGBTQIA+コミュニティやボディポジティブ、環境汚染など、あらゆる問題について発言する、Z世代のオピニオンリーダーとしての一面も。今回のコンサートはアーティスト、そしてアクティビストであるビリーらしさが詰まった公演だった。チケットは発売後、瞬時に即完し、行けなかったファンも多かった。そんな人たちに向けて、コンサートを3つのポイントにまとめた。

1. 3人で観客を魅了。

ライブはデビュー・アルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』(2019)のヒット曲、「bury a friend」からスタート。その後はセカンド・アルバム『Happier Than Ever』の「I Didn't Change My Number」と「NDA」が続き、観客のテンションを一気に盛り上げた。全27曲という膨大なセットリストの中には、「ocean eyes」や「bad guy」といった代表曲はもちろん、デビューEP『Don't Smile at Me』(2017)の「COPYCAT」や7月21日にリリースしたばかりの最新EP『Guitar Songs』(2022)の収録曲「The 30th」を盛り込み、新旧ファンを魅了するライナップだ。

ステージにはビリーのほか、ドラマーのアンドリュー・マーシャルと彼女の兄、フィニアスの3名のみ。照明や映像のダイナミックな変化はあるものの、大掛かりなセット演出やダンスなどは一切なし。ビリーは思うがままにステージを動き回り、時にジャンプしたり、床に寝っ転がったりして、会場の空気から感じたものをそのまま観客に届けた。

「COPYCAT」の中盤では、観客に「姿勢を低くして」と指示。皆、中腰になってビリーの合図とともに、一斉にジャンプし、会場の一体感を高めた。新型コロナウィルス対策のため、歓声などは制限されていたものの、物足りなさを感じることなく、ビリーと会場の躍動感を肌で感じた瞬間だった。

その後、ビリーはメインステージからセンターステージへと移動。フィニアスとともにスツールに座り、「The 30th」を歌い上げた。刹那的な歌声とダークな側面を持つ歌詞、そしてタフなビートが特徴的だったデビュー当時に比べ、最新EPではアコースティック調のサウンドを探求。彼女の生まれ持ったソプラノの歌声とフィニアスのギター演奏が心地よく重なりあい、会場はメランコニックなムードに満たされた。

フィニアス自身も現役シンガーだが、今回は妹のバンドメンバーに徹した。アコースティックギター、ベース、そしてキーボードを巧みに操り、ビリーのパワフルな歌唱力を生演奏で盛り上げた。ビリーは彼を「兄は本当に天才。彼と活動をすることができて、幸せです。フィニアスに拍手を!」と讃え、彼らのパートナーシップと兄弟愛を改めて見せつけた。

2. 衣装チェンジは一切なし! 日本仕様のパンクルック。

注目の衣装だが、本公演ではチェンジを行わず、パフォーマンスに全注力を向けた。その唯一の衣装に選んだのは、韓国発のストリートブランド、スクート アパレル(SKOOT APPAREL)のセットアップ。ビッグサイズのTシャツとバイクショーツは漫画にインスパイアされたプリントで、中央には「CRYBABY(泣き虫)」と綴られている。ビリーは以前より同ブランドのファンで、「Therefore I Am」(2020)のミュージックビデオや、2020年のAMAsでのパフォーマンスでも着用した。

足もとは、ナイキ(NIKE)のエアフォース1 「high PSNY triple white」。走り回りすぎたのか、ライブ始まりのお団子ヘアは徐々にツインテールとなり、最終的にはダウンスタイルに。

ライブの中盤、観客に「楽しんでる?」と問いかける場面が。歓声を制限された状況に気を使い、「ルールを守ってくれてありがとう」、そして「日本のファンはみんな素晴らしいマナーだし、とてもおしゃれ! 」と続けた。日本のファンを称えるだけでなく、ファッションにも目を向けてくれるなんて!  ビリーのスタイルが今後、“東京風”にシフトするかもしれない。

3. サステナブルなこだわり。

SDGsの観点から、ビリー本人の希望で会場にはペットボトルの持ち込みはNG(マイボトルやタンブラーなどの使用はOK)。フードブースには、ナチュラルコーン(芯付きのトウモロコシ)、ポップコーン、そしてきゅうりの一本漬け(!)の3種のヴィーガンメニューが加わり、環境に配慮する彼女のこだわりが伺えた。

サステナブルなメッセージは、舞台演出からも感じられた。地球温暖化に警報を鳴らす楽曲「All the good girls go to hell」では、スクリーンに美しいワイルドライフの情景と、人間による自然破壊の場面や反戦デモの様子が重なり合った映像が流れた。最高のエンターテイメントを届けながらメッセージも訴える、忘れられないシーンだった。

ラスト2曲は、アルバムのタイトルトラック「Happier Than Ever」と「goodbye」。この2曲を歌う前、ビリーはこう皆に語りかけた。「周りの人々と環境を守って。互いのために、立ち上がる勇気を持ってほしい。私はいつだってあなたをサポートする。あなたが居心地がよくて、自分に自信を持てる環境にいてほしい。そして、周りに幸せなんだって、伝えてほしい」

優れたカリスマ性と才能を兼ね備えるビリーは、まだ20歳。そんな若きリーダーの言葉とともに、1時間半に渡る圧倒的なパフォーマンスが幕を閉じた。

Photos: Kazumichi Kokei