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テイラー・スウィフトの最新アルバム、『フォークロア』を深掘り!

テイラー・スウィフトが、7月24日にサプライズリリースしたニューアルバム『フォークロア(Folklore)』で全米シングル、アルバム・チャート同時に初登場1位という史上初の快挙を達成した。このコロナ禍に制作された最新作にどんなメッセージを込め、なぜこのタイミングでリリースしたのか? 歌詞に隠されたヒントから、コラボレーターや過去の楽曲とのつながりまで8つのポイントを深掘りする。
Taylor Swift' Folklore Photo by Beth Garrabrant
Photo: Beth Garrabrant
Photo: Beth Garrabrant

テイラー・スウィフトがサプライズリリースした8枚目のスタジオ・アルバム『フォークロア(Folklore)』は、あらゆる意味で彼女に対する固定観念を覆した。これまでテイラーはいつも慎重にキュレーションしながら、アルバムを2~3年毎に発表してきたが、そのサイクルを自ら『フォークロア』で壊している。快活で開放的な前作『ラヴァー(Lover)』をリリースしてから1年も経っておらず、これは彼女の歴代アルバムの中で最も短いサイクルでのリリースである。

世間の目にさらされて成長したテイラーは、常にタブロイドのネタの対象となってきた。しかし、彼女は卓越した語り手であり、内省的なソングライターだ。フィクションと現実の境界をドラマティックに行ったり来たりする天賦の才能でも知られる。『フォークロア』でテイラーはポップではなくインディー・フォークを大いに取り入れ、物語を伝えることに重きを置いている。多くの人と同様に、自主隔離は彼女の想像力を膨らませ、今という時の重要性に焦点を当てさせた。また、それにより彼女は、これまで以上に感情をむき出しにしている。

2020年は自身の内側にある、今を楽しむ感覚を受け入れようとしたとインスタグラムにテイラーは綴っている。

「去年までだったら、この楽曲を『完璧な』時にリリースするのにはいつがいいか、ということをおそらく考え過ぎていたと思う。でも私たちが生きている今という時代は、保証されることなど何もないということを常に私たちに伝えている」

こうした経緯から彼女は思い切って、私たちが今まさに経験している不安や疑念を受け入れ、私たちが心から必要としている慰めを本作を通じて与えてくれるのだ。

1. 『フォークロア』の着想源。

デビューアルバム『テイラー・スウィフト』(2006年)でのカウボーイブーツをはいた親しみやすい女の子から、自由な精神をはためく虹色のフリンジに込めた『ラヴァー』(2019年)まで、テイラー・スウィフトのアルバムサイクルには美学がある。彼女の最新作『フォークロア』でもそれは同じだ。しかし今作が少し異なるのは、テイラーが異色のホラー映画『ミッドサマー』(2019年)や高い木々を想起させる牧歌的なパレットを選んだことだ。

レコードの発表時、テイラーはインスタグラムに過去の投稿から一転、森の中で一人佇むモノクロ写真を投稿した。それらは2012年にリリースした「Safe&Sound」のミュージックビデオでの、孤立した自然の雰囲気に似ている。音楽制作にあたり、テイラーが過去の作品や昔の自分自身に言及することは珍しくないが、ディストピアが舞台の映画『ハンガー・ゲーム』(2012年)のサウンドトラックにも収められた「Safe&Sound」にインスピレーションを求めたことは、確かに今の時代に合っているように思える。

2. 珠玉のコラボレーター。
Photo: Beth Garrabrant

彼女は過去のいくつかの作品で披露してきたシンセポップから離れて、『フォークロア』では神秘的なインディーフォークサウンドを選んだ。制作にあたり、テイラーはアルバムに収録された16曲中11曲を共同作詞、または共同制作したザ・ナショナルのアーロン・デスナーと、ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノン、そしてザ・ナショナルのメンバーであるブライアン・デヴェンドルフとブライス・デスナーに、「美しい調和」のために協力を求めたという。また、テイラーの常連コラボレーター、ジャック・アントノフも参加している。

3. 過去作品へのオマージュ。

『フォークロア』をリリースする決断について綴ったインスタグラムの投稿の中でテイラーは、「自分が好きなものをつくるなら、それを世界に出すべきだと私の直観が言っている」と述べている。また彼女は、自らが全て作曲した初めてのアルバム『スピーク・ナウ』(2010年)のプロローグの最後にも、こう記している。

「待つべきではないと思う。今話すべきだと思う」

どうやらテイラーには、『フォークロア』をリリースして世界と共有しようという切迫感があったようだ。

本作は、彼女のディスコグラフィーの中でもより繊細だ。『スピーク・ナウ』のノスタルジアと行き過ぎたロマンチシズム、あるいは2012年の『レッド』にあるカントリーの哀愁が詰め込まれたような作品だ。

『スピーク・ナウ』の「Innocent」を思い出させる、もうろうとしたスチール・ペダル風の「Mirrorball」で、テイラーは「まだその綱渡りを」していてと歌い、切ない「August」では、「あなたは失える私のものではなかった」と、同じく『スピーク・ナウ』に収録された「Mine」にわずかに言及している。

さらに『レッド』でスノウ・パトロールのギャリー・ライトボディとコラボレーションした「The Last Time」のチャンバー・ポップの名残りが、『フォークロア』ではヴァーノンとコラボレーションした「Exile」にあらわれている。

4. 高校時代へのノスタルジー。

ハーモニカが使用されている「Betty」で、テイラーはジェームズの役を演じ、高校時代の恋の三角関係を詳述している(これはテイラーが10代の三角関係について書いた3部作の1つだ)。そして前述の「August」(「モールで会いましょう」)と「Invisible String」(「ティールはあなたのシャツの色だった/ヨーグルトショップであなたが16歳のとき/わずかなお金を稼ぐためにそこで働いていた」)でも、10代の自分を振り返っている。また「cardigan」では、「ヴィンテージTシャツ、新しい携帯電話/石畳でハイヒール/若いとき、彼らはあなたが何も知らないと思っている/スパンコールの笑顔、黒い口紅/官能的な政治……」と、愛情たっぷりに昔の自分を再訪している。さらに「Mirrorball」での息もつかせぬボーカルの渦は、プロムでの最後のダンスのような雰囲気を感じさせる。

5. ウィリアム・バワリーは存在しない!?

「Exile」と「Betty」では、ウィリアム・バワリーという名前がソングライターとしてクレジットされている。テイラーは過去に仮名(Nils Sjöberg)を使用して、リアーナの2016年のヒット曲「This Is What You Came For」をカルヴィン・ハリスと密かに共同作曲しているが、ウィリアム・バワリーなる人物は、テイラーの弟オースティン(彼は偽のバンド名で「Look What You Made Me Do」のカバーを録音したのではないかと言われている)、あるいは彼女のボーイフレンドで俳優のジョー・アルウィンのどちらかではないかとの推測が、ファンの間では優勢だ。

6. 過去作から続く秘密のロマンス。

テイラーは一体どうやって、秘密のロマンスをフィルム・ノワール風に仕上げることができるのだろう。ドラマティックな夜の逃亡を思い起こさせる「Getaway Car」に対し、「Illicit Affairs」は、無頓着な恋人のために香水を買い、駐車場で落ち合うといった、浮気のザラザラした雰囲気と心の痛みを詳述している。

「私を子供と呼ばないで/私をベイビーと呼ばないで/あなたが作り出したこの神に見捨てられためちゃくちゃな私を見て/あなたは私が他の誰とも見ることができないことをあなたが知っている色を私に見せてくれた」

彼女は指で弦をつま弾きながら、こう怒りを顕にしている。それは『ラヴァー』の「Death by a Thousand Cuts」のようでもある。

「彼らは嘘をつく...…100万回の小さな瞬間に」

7. 政治と世界情勢に対する幻滅。

政治的主張をするようになったテイラーが、それについて感じた苦痛を楽曲を通じて表現しても驚くべきことではない。ヴァーノンの甘いバリトンをフィーチャーしたデュエット「Exile」で、テイラーはこう歌っている。

「私は前にこの映画を見たと思う/そして、私は結末が好きではなかった/あなたはもう私の祖国ではない/だから私は今何を守っているの」

新型コロナウイルスによるパンデミックもまた、テイラーの心に重く乗しかかったようだ。繊細な賛歌「Epiphany」で彼女は、「医学部で教わらなかったこと/誰かの娘、誰かの母親/今ビニールを通してあなたの手を握る」とささやいている。

8. 重苦しい旋律に乗せた批判。
Photo: Beth Garrabrant

キャリアを通じて、テイラーはジェンダー批判にあってきた。2013年に『ヴァニティ・フェア』誌のインタビューで、彼女はこう述べている。

「女性が自分の気持ちを正直に書くと、執拗で正気を失った自暴自棄の女性と捉えられる……。率直に言って性差別的に解釈され、変えられ、ねじ曲げられてしまう」

テイラーが声区を下げるとき、そこに真剣なメッセージが隠されていることを知っているだろう。彼女は『ラヴァー』に収めた派手なエレクトロ・ポップ「The Man」を通じて、音楽業界に蔓延する女性のダブルスタンダードを批判したが、『フォークロア』でも個人的なメッセージを発信している。ゲイリー・ジュールズの「Mad World」のカバーである「Mad Woman」の重苦しいキーに乗せたのは、元所属レーベル、ビッグマシンの創設者スコット・ボルケッタとスクーター・ブラウンに対する憤りだ。

「隣人の芝生に私の顔が見える?/彼女は笑っている/それとも彼女の口は『永遠にくたばれ?』と言っている」

テイラーは一連の騒動の中で、「私に死んでほしいと思う気持ちが、二人を結びつけたことは明らかだ」と、痛恨の一撃を食らわせている。

Text: Ilana Kaplan