ユーミンが2019年版“ネオ・シティ・ポップ”発表、背景にSuchmosやサカナクションの存在「彼らは頼もしい」

 デビュー47周年に突入した松任谷由実が、ニューシングル「深海の街」を配信リリースをした。この曲はテレビ東京系の報道番組『WBS(ワールドビジネスサテライト)』のエンディングテーマとして書き下ろされた、ユーミン による2019年版の“ネオ・シティ・ポップ”とも言えるナンバーだ。配信の同日には荒井由実及び松任谷由実の全曲ハイレゾ配信がスタート。さらに11月6日には最新全国アリーナツアーの模様を収めたDVD/Blu-rayもリリースされる。新たなモードに入ったユーミンに話を聞いた。

絶対に新鮮な曲が生まれるという確信があった

  • 松任谷由実 「深海の街」(9月18日発売)

    松任谷由実 「深海の街」(9月18日発売)

 松任谷由実の新曲「深海の街」は、『WBS』のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲だが、その誕生には、冴え渡るユーミンの第六感を感じさせる不思議なエピソードがあった。

「ずっと好きな番組だったので、本当に偶然、オファーをいただく少し前のタイミングに、『WBSのテーマだったらこんな曲かな?』と、勝手にメロディの原型を頭の中で鳴らしていたんです(笑)。部屋に居ながら首都高をドライブしているような気分になれる、アーバンな曲を書こうと思いました。バーチャル・リアリティ的な近未来型の“脳内リゾート”ですね」

 そうした詞曲の着想と同時に、ユーミンは「今回はフュージョンを、AORをやろう」というプランを口にしていたという。

「ブラックコンテンポラリーのアレンジに乗せて日本語の歌詞を歌うというアプローチは、私にとっては、70年代後半から80年代初頭に通った道とも言えます。でも、いま改めてトライすれば、絶対に新鮮な曲が生まれるという確信がありました」

 フュージョン、AORの世界における彼女にとってのフェイバリットを聞くと、ボビー・コールドウェルとマイケル・フランクスの名前が挙がる。

「特に彼らには導いてもらいましたね。そもそもAORは、日本語との親和性が強い音楽なのだと思います。日本語の情緒感、コード進行の憂いの関係性、起承転結の設け方や、時にその裏をかくような展開も含めてね。先日、あらためてルパート・ホルムズを集中的に聴いて、自分なりに歌詞を訳してみたんですが、やっぱりストーリーテリングがしっかりとしていた。AORではないけれど、ポール・サイモンの曲にも同じ良さを感じます」

ニューシングル「深海の街」ミュージックビデオ

シティ・ポップとコミックバンドは演奏が上手くなきゃ成立しない

「深海の街」の演奏には、鳥山雄司、高水健司、渡嘉敷祐一、浜口茂外也、そして松任谷正隆といったベテラン勢が揃った。ユーミン一流のストーリーテリングが、巧みなプレイでシャープに具現化されている。

「みんな、水を得た魚のように生き生きと楽器を弾いていますよね。ずっと聴いていられるような、不思議なグルーヴが生まれました」

 歌詞においてポイントと言える言葉が〈ストローク〉だ。

「作詞の時、たまたまテレビで(テニスの)大坂なおみさんの試合を観ていて、そういえばテニスにも水泳にも〈ストローク〉という言葉が用いられると気付きました。歌詞の中では、動きそのものよりも、それによって描かれる“弧”に重きを置いています」

 まさに2019年のユーミン による“ネオ・シティ・ポップ”とも言える一曲だが、今回の創作で刺激となったのが、近年、彼女と親交のある後輩アーティストたちの存在だった。

「以前からSuchmosを聴いて、『おっ、やるな!?』と思っていましたから(笑)。あと、サカナクションも。曲の良さはもちろんだけど、何よりああいう音楽を演奏するにはスキルフルじゃなきゃダメでしょう? その点でも彼らは頼もしい。昔からシティ・ポップとコミックバンドは演奏が上手くなきゃ成立しませんからね(笑)」

サブスクリプションでは、何年に生まれた曲でも出会った瞬間が新曲

 最近、海外のDJや音楽リスナーの間でも、70〜80年代のシティ・ポップが注目されている。かつて、その潮流を推し進めた存在とも言える一人として、ユーミンはこの状況をどう見ているのだろうか。

「もちろんうれしいです。何より、日本語という言語も込みで、音楽として受け入れてもらえていることが素晴らしいと思います。私自身、70年代当時から、いつかきっとこういう時代が来ると思っていましたから」

 では、サブスクリプションに代表される昨今の音楽配信事情についてはどうか。

「一度出したら、引っ込めるわけにもいかないじゃないですか?(笑)。まあそれは冗談だけど、気付けば私も普通に使って、いろいろな音楽を便利に聴いていますからね。未知の音楽をサーフィンするように楽しめるし、それが何年に生まれた曲でも、出会った瞬間が新曲という感覚で、ある意味、時間軸が関係なくなるのもいいですね」

「深海の街」が配信される同日には、荒井由実及び松任谷由実の全曲ハイレゾ配信がスタートする。

「ハイレゾで聴くと、「そうそう、これがやりたかったの!」と、レコーディング当時の感覚が鮮明に立ち上ります。音楽の妖精たちの姿がくっきりと見えて自分でもわくわくします。私自身、いつ、どなたに、どんな形で出会ってもらっても遜色のないよう、命を削って音楽を作ってきましたから。どんどん聴いて、出会っていただけたらうれしいです」

お客様との距離感を常に忘れたくなかった

 昨今では、アルバム単位ではなく楽曲単位で音楽を楽しむリスナーも多い。この傾向は、数多の名盤で知られる彼女のアルバム制作にも影響を及ぼしているのだろうか。

「そこは「三つ子の魂百まで」じゃないけど、特に意識の変化はなく、ただただ精魂込めて作っているだけですね。画家の気持ちで譬えるならば、ニューアルバムは最新シリーズの展覧会で、ベスト盤は回顧展。エントランスを飛ばして途中から楽しんでもらっても、あとから展示の全体に興味を持ってもらえたらいいので」

 11月6日には、最新全国アリーナツアーを収めたDVD/Blu-ray『YUMI MATSUTOYA TIME MACHINE TOUR Traveling Through 45years』もリリースされる。アリーナクラスのツアーはユーミン自身の希望だったという。

「一番の理由は、「お客様との距離感を常に忘れたくなかった」から。私は、アリーナクラスの会場を、ステージ上で行われているパフォーマンスを生で体感していただける最大にして限界の規模だと考えています。それは即ち、「歌をどう届けるか」にも繋がります。生の演奏に乗った生の言葉を届けて、お客様それぞれにイメージを広げてほしい。それは演出や衣装と同様に、ライブにおける私の長年のこだわりでもあります」

 現在、彼女は通算39枚目となるオリジナルアルバムを制作中だ。新たなモードと不変のポリシーで編まれるユーミンの次章に期待が募る。

「『深海の街』で、次の入り口が掴めた。そんな手応えを感じています」

(文/内田正樹)

提供元: コンフィデンス

あなたにおすすめの記事

メニューを閉じる

 を検索